第一章~闇金融トラブルの現在(いま)~
警視庁による最新のデータによると闇金融事犯の摘発事件と検挙人数そして相談件数は以下の通りだそうである。
- 令和元年639件
- 検挙人員724人
- 相談件数6690件
- 令和2年592件
- 検挙人員702人
- 相談件数5574件
全体的には減少傾向にある。これ以上の期間の詳細なデータが気になるのは警視庁なり金融庁なりのホームページにいけばより詳細なデータ、例えばここ10年のデータや分かりやすく視覚化したグラフなどもあるので、そちらを見ていただくことで、本稿では御容赦願いたい。
上記に挙げた数字はあくまで警視庁、つまり東京におけるデータで、他県についてのデータを調べていないので、あくまで『東京都において』という注釈がつくのと、どの業界でも『大成功』『成功』『失敗』と言った成果の目安が違うので(企業の業種や規模によって『大幅増益』『増益』『微増』の数字が違うようなものか)一概には言えないが、少なくとも警視庁の努力は成果を上げている、と言えるのではないだろうか?
ただ気になるのは検挙人数に関してはそれほど変わっていない(令和元年724人、令和2年702人)ようだ。
これはウラを取っていないので私の仮説になるが、一件あたりに対して関わる件数が増えていると考えるのが自然だろう。つまり、大掛かりかつ巧妙な手口になっている、と言えるのではないだろうか。
第二章~犯罪としての闇金融の性質について~
少し話は変わるのだが、そもそも『闇金融』という犯罪行為についてちょっと考えてみよう。
闇金融を考えるうえで『闇』=違法=犯罪、よって警察(東京都の場合は警視庁)の管轄と考えるのは間違いない。だが単にそれだけ、とも言い切れないところがある。
まず、例として『殺人』という犯罪行為を考えてみよう。
読んで字の如く『人を殺す』という要素が犯罪の構成の100%を占める司法の領域、簡単に言えば警察の領域なわけだ。
たとえ『保険金目当て』であったり『遺産相続』と目的があったとしてもそれは動機として付随するもので、あくまでも『殺人』という犯罪行為の構成要件では無く、警察以外に介入する余地(行政の立場からすれば、という意味で)はないと言える。
それに対して『闇金融』(まぁ色々やり口も多様化しているしそれぞれに名称はあるのだろうがざっくりと『闇金融』と本稿では言わせていただく)というのは、上記に挙げた『殺人』のように、司法の領域以外が介入する余地も見地もない、と言い切れないところがある。
というのはこの『闇金融』という犯罪行為は、違法であるにせよ確実に『金融』という側面も持っている。つまり上記にあげた『殺人』などと違って、犯罪行為自体が『違法にお金を融資して、法外な利息で取り立てる』というように金融業、貸金業的な部分が犯罪の構成要素はとして不可分であり、そう考えた場合、金融行政の部分に介入の余地があると言えるわけだ。
と、前置きが長くなったが、今回、
『闇金融』の持つ『金融』という側面にスポットを当てて、金融業を司る行政部門は闇金融問題に対してどのような対策、及び取り組みを行なっているのか?
そもそもどこが担当部門で、どういった業務を行なっているのか?
ということをテーマとして書き進めて行きたいと思う。
第三章~金融業としての闇金融~
実は、私自身一体どこが担当しているのか見当がつかなかった。とりあえず頭に浮んだのは金融庁である。
『金融業を担当するところって言ったらやっぱり金融庁じゃね?』ってなもんである。
さっそく金融庁の相談窓口に電話をかけてみた。
しっかりとメモするなり、電話をかけた時点で録音できる状態にしておけばよかったのだが、相手は巨大官庁、まして今コロナによる人数削減でどこの企業のコールセンターもなかなか繋がらないご時世である。
話を聞き漏らしたり、後で正確を記すために、通話の録音、メモ準備は自動音声が流れている間でいいか、と思っていたら思わぬ速さで電話の窓口に金融庁の担当相談員の方が電話口に出て下さった。
で、こちらの身分やスタンスを名乗り、電話における質問が始まったのだが、『当にこれぞ官僚答弁!』と言いたくなるくらい
『金融庁と致しましては定められた法令に則って粛々と業務を行うところでして~』
と言った感じの言葉の羅列が並び、素人には理解が難しい。
何度も念を押すかのように問いただし、確認をとったりする。
金融庁というところの行政機関としての位置付け、それと今回の趣旨である
『闇金融トラブルに対する行政機関としての対応やスタンス』を聞いてみた。
あくまで私の理解できる範囲であるし、間違いもあるかもしれない。
が、そのあたりの責任は一切私に帰すのもであり、金融庁側に非はない。
そして少しdisり気味な記述もあるが、これはどこの馬の骨ともわからんライターが、事前アポもなく、いきなり電話してきて、あれこれ聞き込みをしている状況を考えるに、こうした対応に向こう側としてもならざるを得ないであろう。
電話口からバシバシ警戒してる感出てたし。
電話を切った後に私なりに聞き出したこと、理解したことをまとめて、金融庁としての解答の要点を簡単に記すと
- 金融庁というのは金融政策並びに法令、指針を定めるところであり、闇金融被害などの報告や相談が上がって来れば(私は闇金融に限定して質問していたので)各都道府県の警察に報告は当然する。
- そして注意を喚起するような啓蒙活動、具体的にはポスター、リーフレットの配布などは行なっているが、金融庁というところはあくまで法令、指針を定めるところであり具体的な個々のトラブルやケースに対して出向いて解決をするという性質の組織ではない。
- よって金融トラブル、被害に遭っているということで有れば、それは明らかに犯罪行為であるから直接警察の相談窓口に相談したほうがいい。
- 貸金業を営む場合、当然貸金業法に基づいた登録が必要であるのだが、それは各地方自治体、東京なら東京都産業労働局などの管轄であること、そして複数の都道府県にまたがり業務を行なう場合は財務省の管轄になる。
ということである。
『複数の都道府県にまたがり業務を行なう場合は財務省の管轄になる』というのは個人的に意外で、本稿の本筋とはそれほど関係ないが、非常に興味深く感じた。
『えっ!ここで財務省出てくるんだ!』みたいな感じである。
さてと、本題に戻ろう。
先程の話で東京都に関して言えば金融行政を司っているのは産業労働局であると書いたが、電話を終えた時点では『東京』『労働局』というキーワードはなんとかメモっていたが、正式名称をメモっていなかった。
この2つのキーワードを入れて検索エンジンで検索すりゃ多分わかるだろってなもんで。
『東京なんたらは労働局だったな、とりあえずGoogleさんに『東京』『労働局』って入れりゃ出るだろ』
と検索ワードに入れて検索したら、もろに『東京労働局』というのが出てきた。
で、ホームページを斜め読みして金融関連事業を探したのだが『闇金融』というキーワードなんか一つもありゃしない。
『働き方改革』とか『男女雇用均等』みたいなワードは沢山出てくるのだが。
『これ多分違うな』
と、再び検索結果画面に戻り少し下の方に『東京『都産業』労働局 』というのがあり
『これか!』
とホームページを閲覧するとまさに当たりで、部署としては『金融部貸金業対策課』というところが本稿のテーマであるところの問題を担当しているらしい。
で、またもや早速電話してみることにした。
こちらはかなり詳しく懇切丁寧にお話をしてくださったので、以下ある程度こちらで無駄な部分を省きつつインタビューそのものをそのままお伝えする。
第四章~闇金融トラブルに対する東京都産業労働局のスタンス及び取り組みに関するインタビュー~
電話口に出た方(失礼、名前は失念した)に身分を名乗り、こちらの取材要件を伝えると
『まず、資料の用意などもありますし、精査致しまして、それから担当の者に折り返しお電話させていただくということでよろしいですか?』
とのことで、もちろん構わないです、と答えてこちらの電話番号を伝えた。
待つこと15分くらいで折り返しの電話がかかって来た。
『もしもし、金融部貸金業対策課のS(仮名)と申しますが要件は伝わっておりますので何をお聞きになりたいのでしょうか?』
『私名乗りました通り、闇金解決センターという闇金被害者の救済を目的としたサイトで記事を書いておりまして、この闇金トラブルと言ったことを考えますに、民間ですと法律事務所も色々広告を打ったり、言ってみれば目立った活動をしている。それでまぁ公的機関として警察はもちろん全面に出て活動をしてるのはわかるんですが、まぁ我々一般人にですよ?ふと考えたわけです。そう言えば金融を司る公的機関、まぁこちらが東京都においては当たるわけですが、こう言った問題をどう受け止めて、どういう活動をしてるか?みたいなものをお聞きしたいなぁと思いまして、お電話したしたわけでして』
『まずですねえ』
『ちょっとすいません、録音させてもらっていいですかね?聞き漏らしたりするといけないんで』
『大丈夫ですよ、ゆっくり話しますから、録音なんかしなくても』
『わかりました。助かります』
物腰も柔らかく、どうやらいい人そうである。
『それでまずですねぇ、金融部貸金業対策課の業務は貸金業というのは登録制で、その申請、登録を扱うのが職務なんです』
『登録をされている業者=消費者金融含め合法業者、無登録の者がいわゆる闇金ってことですかね?』
『そういうことですね』
『ということはホームページに書かれているような『業者への指導改善』ということもあくまで登録されている、言ってみれば適法な業者に対してってことですかね?』
『そういうことです』
『そうすると、闇金というものに対しては管轄外のことである、と』
『いや、そういうわけじゃないです。ご自身が借りようとしている業者が無登録業者であるかどうか照会できるように、ホームページで東京都の貸金業登録業者の一覧を閲覧可能になってますし、東京都が苦情を受理した無登録業者(ヤミ金融の疑いがある業者)も過去5年分掲載してます。また東京都が行政処分を行った業者について、行政処分を行った日から5年を経過する年度末まで掲載しています。
ですから、お金を借りる必要があった場合、まず借りる前に照会して安全な業者なのか、確認していただきたいですね』
『なるほど、それとこの問題、先程当局の本来の職務のお話はお聞きした限り、本筋の業務ではないわけですよね?
言ってみれば傍流(ぼうりゅう)であるこの問題について、そうですね、言ってみれば無視できない、意識せざるを得ない状況になったのはいつあたりなんですかね?』
『やっぱりこう言った問題に関しては、平成15年あたりがピークというか件数が多かったですね。』
『グラフを見る限り確かにそれ以降減少傾向になってますね。これはどういったことが理由としてあるんですかね?』
『貸金業改正法施行(注)(2006年12月13日の貸金業法改正,2010年6月18日改正貸金業法完全施行によりグレーゾーン金利撤廃)が大きかったです』
『それ以外にはあまり理由はない?』
『いや、やっぱり官民ともにこういった問題を解決するに当たって、支援できる様な体制が整ってきたということもあると思いますね』
『なるほど、それで具体的には初めはどのような活動を始めたわけですか?』
『いわゆるポスターやチラシなどに代表されるような都民に向けた啓発宣伝活動ですね』
『それはいつ頃なんでしょうか?』
『平成18年です』
『それとホームページを拝見してみますと『出前講座』というのもやられてますね?これは具体的にはどういうことをやられてるんですか?』
『これは主に高齢者だったり、学生であったり金融トラブルに対して比較的無防備な人達を対象に、金融トラブルの事例、被害にあわないためのポイント、ローンやクレジット等に関する知識を出前講座として講義をする、いってみればトラブル予防を目的とした取り組みですね』
『こちらはいつぐらいから?』
『令和元年からですね』
『それに関連してですが
【一都三県ヤミ金融被害防止合同キャンペーン 】
というのをやっていて
【東京都では、国や民間団体等とともに「東京都多重債務問題対策協議会」を設置し、多重債務問題の解決や金融トラブルの被害防止に向けた取組を実施しています】
とありますね?
令和3年11月15日~21日には
【一都三県ヤミ金融被害防止合同キャンペーン】
というのを行ったそうですが、ポスター見ますと行政、民間共にかなりの団体が名を連ねてますよね?
この『国や民間団体とともに』とあるのは、やはり、行政だけだと出来ることに限界もあるし民間の力も活用したほうがいい、官民で足りないところを補完し合うほうがいい、というコンセプトからこういう形になったと考えていいわけですか?』
『そうですね、お互いに連携してそれをカバーし合うということですね』
『どうもありがとうございました。それで一応ですね、記事として出す前に誤りなど訂正箇所をチェックするするためにアップ前の原稿をそちら様にお送りして『これでOKです』という承諾をいただいてからアップいたしますので原稿の送り先のメールアドレスをお教え願えないでしょうか?』
『あぁ、わかりました。じゃこの○○○○でS田でお願いします。これで届きますんで』
『承知いたしました。復唱致します。○○○○S井でよろしいですか?』
『いや、あの・・・私S田なんですけど・・・』
『あ!すいません。S田さんですね。承知致しました。どうもすいません。それでは原稿上がり次第そちらに送りますのでよろしくお願い致します。今日は突然の電話にも関わらず丁寧にご説明して頂きどうもありがとうございました!』
凸アポで、しかもいい感じに話を聞けたし今回大成功だったな、と思いながら最後でやっちまったよ。てか俺ほんとに人の名前覚えんの苦手なんだよなぁ、結構この仕事長くしてんのになぁ、と思いつつ電話を切った。
第五章~結び~
とまぁこのような形でお話を伺い『闇金融問題』というものを、
- どこの行政が担当しているのか?
- またどう捉えてどう対応をしているのか?
- このあたりの漠然としたところを明確に知りたい。
- またその『中の人』の生の声を実際に聞いてみたい、
と言うのが今回の記事の目的であったのだが、拙いながらも一定の目的は達することが出来たのではないだろうか。
『まとめ』的なものはインタビュー内容と重複するのでしないが、多重債務であったり金融トラブルを抱えている人にインタビューをしていると
『それにしても国は何してるんだ!』
的な、本来の敵というかトラブルの原因たる金融業者以上に国や行政への憤りをインタビュアーたる私にぶつけてきて
『いやいや、あなたの本当の敵はそっちではないのでは?』
という心の中でツッコミを入れるケースがそこそこ見受けられるのだが、前述の通り、国、行政も無為無策に手をこまねいているわけではなく、その管轄部署において出来うる取り組みを行っている。
もちろん完全ではないかもしれないし、不満を持つ方もいるかもしれない。また、こういった問題はまだ現在進行形の問題であり、まだまだ改善の余地もあるかもしれない。
それでもやはり
『国』『行政機関』
というのは基本的にはあなた方の味方たる存在であり、
真の敵は
『闇金融業者』『登録免許を持ってはいるが違法な利息で取り立てを行う金融業者』
である、ということを忘れないでほしい。
といったところで本稿の結びとさせていただく。